セミのレスキュー

ある年の春のこと、住んでたマンションの駐車場の横に小ぶりの神社があった。(2015・4・24 カラス物語)

その神社に古い大きな木があって、毎年春になると枝いっぱいに何とも知れない小さな花が咲いた。

花はすぐに散って周囲に粘着性の樹液のようなものをまき散らす。

駐車場のクルマはベトベトになって、すぐに洗車しないと取れなくなる。

隣枠に停めるおじいちゃんのジムニーもベトベトになって「毎年こうだ」とぼやいていた。

仕事で出張でもしてるのか、数日置いたままになっているセダンはグチャグチャに汚れて、風で飛んで来たゴミが張り付いていた。

誰かが管理会社に苦情を言ったのだろう。高所作業車がやって来てその木が枯れない程度に坊主頭に枝払いをやった。

それまでたわわに葉を茂らせて近所の名物のようになっていた木が、哀れに見えるほどに刈り込まれてしまった。



やがて梅雨が来て、暑い夏がやって来た。

ほとんどの枝を切られたその木も、枝の根元から新しい芽を出し始めていた。

これで少しは緑が戻るだろうと思った矢先に、どういうわけかカラスが集まり始めた。

腹の底から力いっぱいに「カー・カー」と啼いてうるさいことこの上ない。

いったい何が起きたんだと周囲の人々が訝しんでいると、その木の根元の土に穴が開いてセミの幼虫が這い登っているではないか。カラスたちはそれを狙っていた。

次から次にセミの幼虫をついばんで食べている。

それまで枝が茂っていた大木だったから、セミの幼虫は外敵に襲われることなく安心して羽化していたはずだ。それが今年だけはすっかり枝が切られて丸裸になっている。

カラスは昼間にしか行動しないから騒ぐのは日中だけ。夕方に土から出て来て抜け殻から脱皮して、一晩かけて翌朝までに飛び立つセミだけが生き残った。

それを近所中の人々が観察した。

昼間にセミを保護しようとするとカラスの攻撃を受けてしまう。カラスは知能が高いとされて、人間を個体で記憶すると言われている。

それで、近所の商店街のオヤジ連中の朝の散歩時刻が早くなった。新聞配達の時刻のまだ薄暗い頃にジャージ姿のオヤっさんたちが神社に集まって来て、夜明けまでに羽が乾ききれないでいるセミの幼虫を集めて保護するようになった。

アルミの脚立を持ち込むつわものまで表れた。

地表に出て来たセミは1週間しか生きないという。

「せっかく生れて来たんだ。全うさせてやりてぇじゃねぇか」

木立の樹液に困り果てていた近隣住民が、笑顔で一つになれた夏だった。




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こんにちは

羽化して翅が伸びたとき、せいせいするのでしょうか、蝉は。

うづらどの

生きとし生ける物は何でも可愛い。ゴキブリ以外は。
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