腹いっぱいのうに丼

九州のウエストコースト(西岸地域)を中心にして地震災害の報道が続いているのだが、これらの水俣・八代・宇土・天草地域にはある思い出がある。

福岡の支社に勤務していた頃、福岡市内に本店を置くある地方銀行が、各支店の金庫室の状況を一覧表にして出してくれと言って来た。

いわゆる取締役会で議題に上って、総務部管財課が慌てて連絡をして来たものだった。

福岡に本店を構えると言っても九州の中心地だけに、取り引き企業は九州全域に及んでいるのであって、その事情から支店や出張所もまた九州全域に広がっている。

九州を東西南北に分けてみんなで手分けして調査にあたることになった。

私の担当区域は熊本県内のウエストコーストだ。




まず九州自動車道を使って一番遠い水俣まで一気に行った。

本店から事前に連絡が行っていたので、水俣支店での調査はすぐに終わった。移動距離に比べるとあっけないものだった。

水俣病で世界的に有名になった土地だが当時すでに公害対策が進み、食堂ではわざと焼き魚定食を選んでビジネスホテルに一泊した。

翌朝、県道を使って八代支店へと移動した。

豊臣側の薩摩と、徳川側の肥後細川の中間地点にあったために、ひどく道幅が狭くてごちゃごちゃしているのが八代だ。

当時はまだカーナビとかなかったので、地図を広げながら八代支店を探し出した。

時間を食ったので、宇土支店へ急いだ時には昼の時刻だった。

最後は天草の本渡(現、天草市)支店だったのだが、そこまでの距離がどえらく長いので、昼食をとる心理的余裕がなかった。

本店からは連絡が行っていることだし、私は1泊2日の出張になっている。「翌日にしよう」と言うわけには行かないのだ。

天草五橋の内の三号橋まで必死で渡りどうにか本渡までの見通しが付きそうになったのが午後3時半。ビジネスホテルで軽い朝食をとったきりだったので腹ペコだった。

「途中でアンパンでも買っとけばよかったなー」

今はどうか知らないが、当時の天草はコンビニどころか雑貨店ひとつない田舎だった。缶コーヒーの自販機すらもない。

四号橋のたもとは広い駐車場になっていて展望所を兼ねた広い土産品店がある。

風光明媚な天草の絵葉書などは、ほとんどこの展望台から撮影されたものだ。

土産品店ならレストランもあるだろうと思って立ち寄ったが、時刻が時刻で「準備中」になっている。

がらんとした売店で、中途半端に老けた叔母さん店員が制服姿でこっちを見ている。

私は観光客というよりも、出入り業者に見えたはずだ。

展望台から下り坂になっていて、港町に入ると水産場があった。

そこに「うに料理」と看板が出ている。しめしめ、好物だ。

未舗装の砂利道駐車場にクルマを停めて、店の中に入って行くと照明が消されて真っ暗になっている。

そりゃそうだろう、ここは水産場の食堂なのだからこんな時刻に開いているほうがおかしい。

念のためにと思い「こんにちはー」と声をかけた。

ひと息おいて中から出て来たのは、恰幅の良いお母さんだった。

「あの、看板を見て寄ったんですが」

「ありゃまぁ、昼ご飯かい。それとも夕ご飯かい」

「お昼を食いっぱぐれてしまって・・・」

「そりゃそりゃ可哀想に、おなかが減っただろう」

「あの、うにが好物なんですが・・・」

「ああ、今朝の分はもう出荷してしまったからね、クズしか残っとらんよ」

「クズで結構なんですが・・・」

「じゃぁ、テーブル席で少し待ってなさい。マンガでも読みながら」

広い店内のひとつのテーブル席だけに蛍光灯を点けてくれたお母さんは、厨房へ引っ込んだ。

何か月も前の少年ジャンプやマガジンが雑に積み上げられていた。

「あんたアラカブのみそ汁は好きかね?」

怒鳴るような大声でお母さんが奥から聞いて来た。

アラカブというのはカサゴのことで九州ではそう呼ぶ。

「いえ、煮魚はちょっと苦手で・・・」

「そうかい、じゃあワカメのみそ汁にしてやろう」

「お願いします」

しばらくして出されたうに丼にはひっくり返るほど驚かされた。

白いご飯が見えないくらいにびっしりとうにが乗っている。

「クズうにを、あるだけ乗せてきてやった、あはは」

丼に乗せることができなかったしそやきざみ海苔は横の小皿に盛ってある。

天草は磯場が豊富だから海藻が多く、そのために良いうにが捕れることで有名だ。




その数年後に、福井の東尋坊でうに丼を食べる機会があったが、つぶ揃いのうにだがほんのちょっとで1500円くらいした。

天草で食べたそれは、450円だったのだ。

まぁ「ゼロ円食堂」のようなものだからぼったくりだが、あのお母さんにはまた会いたい。



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