欲しい物

かつて私を含むほとんどの人に、欲しい物が山のようにあった。

クルマだったりオーディオだったり、衣服だったり時計だったり、家具だったり家だったり。

それらの希望を叶えるために日本人は本当に良く働いた。

製造業であれば、その性能を高めて国内需要どころか輸出するために大量生産をやった。

カメラやテレビなどは世界一の品質を達成して他国の追従を許さなかった。

もの凄いスピードで世界経済を席巻した。

ドイツもそうだった。

第二次世界大戦に勝利した連合国側は、日本とドイツの経済発展に苦しめられた。

そこで為替レートの変動相場制を押し付けて来た。

日本の円とドイツのマルクは急激に上昇した。

しかし、日本の高性能な生産品は円高くらいでは売り上げを下げることはなかった。

世界にはまだまだ物が行き渡っていなかったのだ。

東南アジアや中南米などの発展途上国では、生活の足として日本の高性能なバイクや、漁業のための船外機などが飛ぶように売れ、イギリス製などの「すぐに壊れる」製品は駆逐されて行った。

しかし台湾をはじめとする新興国が、日本企業の下請けをやっていた間に製造のノウハウを覚えてしまった。

台湾のメーカーの経営者ははっきりとこう言った。「わが社にある組み立て図面の山が最大の財産です」と。

ヤマハのアンプやソニーのテレビなどが、いつの間にか台湾で組み立てられていた。

そうやって安価な製品が日本に流れ込んで来た。

安くても日本製だから長年の夢だった製品を国民はひとつひとつかなえて行った。

そのために残業もすれば貯金もした。

「欲しい物」があって、その先に「お金」があった。

そして「欲しい物」が徐々に安くなって行き、不動産バブルという「金あまり」状態になって行く。




バブル景気がはじけた後、持ち家はともかくとして、生活上の必要品はほぼ行き渡った。

ゴルフ場の会員権などといった野望家は別として、一般庶民は不景気になって所得も減ったけれど、生活に不自由するほどの困窮もしなかった。

なぜならば買うべきものはすでにそろっていたからだ。

冷蔵庫のない家庭も洗濯機のない家庭もまず見当たらない。

ましてや一家に二台三台のテレビも珍しくなくなった。

バブル景気の頃には無駄な贅沢をしていただけで、暮らしの中から無駄をそぎ落とせばそれなりに暮らして行けた。

こうなって来ると、高性能で耐久性も高いと評価されていた日本製品が逆に日本経済の足かせになった。

「買う必要がない=売れない」となったのだ。デフレである。

そこで政府主導で強制的に買い替え需要を迫ったのが地上デジタル放送だった。

アナログ放送が終われば、ビデオもテレビも嫌でも買い替えるしかない。

アナログ電波に比べてデジタル電波は障害物に弱い。だから第二の東京タワーが必要になる。

巨額のカネの流れを強制的に作ったわけだ。

しかしそれは一時的なものであって、盲腸炎なのに痛み止めを飲んでいるようなものだ。時間稼ぎではあっても、根本的な治療ではない。

目先の対症療法しか役人が思いつかなかったがために日本経済はどんどん泥沼にはまって行った。

デフレスパイラルである。

安い物なら何でも良いと言って、小売業は中国製品に走った。いまだにその名残りはある。

マクドナルドのチキンナゲットが中国で作られていただなんてほとんど詐欺の世界だ。

消費者の購買力が落ちたことから、製造業は努力して製造コストの削減に向かった。

極限までコストを下げても間に合わない企業はリストラをせざるを得なかった。

失業率が上がり必然的に国民の可処分所得が減った。

ビール党が発泡酒に代えた。

そうした国民の苦心をあざ笑うかのように、酒税法を改正してビールと発泡酒の差を縮めようと政府はしている。

この場合の政府とは官邸のことではない。霞が関の役人たちのことだ。

さらに日銀がじゃんじゃん紙切れを印刷している。

「コレを使って消費せよ」との号令だ。

しかし経済発展していた頃の日本の構造と今はちがう。

「欲しい物」があってその後をカネが追いかけて来ていた。

今はカネだけを印刷して「さあ買え」「そら買え」とやっている。

「必要なモノはほとんど揃ってるんだよ」と霞が関に気付かせてやらなければならない。

だからもっと製造業への支援をやって革新的な新しい製品を世に出して行くしかないのに、消費増税だけを先行させてはこの国の経済を転覆させる方向にしか向かない。

「あんなものが発明されれば買うんだけどな」そういう製品をまず世に出すべきだ。

STAP細胞を追い出すようではオボつかないだろう。

どんなに優れたクルマでも、酔っ払いに運転させては真っ直ぐに走るわけがない。

違うだろうか。





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