日本の言葉

「日が暮れる」とは「太陽が沈んであたりが暗くなる。夜になる。」と辞書にある。
「暮れる」とだけ引いてみると、「季節や年月が終わりに近づく。」とある。
また「同じことを繰り返しして、時が過ぎる。あけくれする。」とも出ている。

一方で、悲しみなどで暗い気持ちのまま時を過ごすことを「悲嘆に暮れる」と言うし、どうしたらよいか見通しが立たず困ってしまうことを「途方に暮れる」とも言うらしい。
つまり「暮れる」という言葉は、終わるとか行き詰まるなどといったマイナーな意味が含まれているようだ。
だから年末のことを「暮れ」と呼び、それが過ぎ去るから「明けましておめでとう」となるのだろう。
まだ暗い夜を過ごしていた時代には、夜の闇には魔界を感じていたからだろう。

ところがここに「暮らし」という言葉がある。いわゆる日々の営みのことだ。
だとすれば人が生きて行くのはマイナーなことの繰り返しなのだろうか。
一日一日を終わらせて行くのだから「日暮らし」なのだろうか。毎日というのは消化するものなのだろうか。

単なる言葉の綾だよと鼻で笑われそうな、稚拙なことなのかも知れない。
だが、日本語の奥深さを考える者とすれば、つい踏み込んでしまう。

英語だと家も小屋も大統領の官邸でさえもが「House」の一言で済まされる。
「You」にしても、日本語では「あなた」「君」「お前」「貴様」いろんな表現があり、それぞれ違った意味合いを持たせてある。

「ごめんなさい」と詫びる場面でも、「御免」を「なさい」と言っているわけだから、相手の寛容を求めている表現になる。
ところが英語だと「I'm sorry」つまり「私は残念だ」という自分の感情を表現することになる。
新国立競技場のデザインを白紙にされたイギリスのデザイン事務所が「残念だ」とのコメントを出したとか。おそらく「sorry」と言ったことだろう。

「さようなら」とは別れの言葉だが、「左様なら」と文字に書いた場合、それは縦書きの手紙のことだ。それ以上左の空白部分に文字を書くことがないという意味になる。
なぜ「こんにちわ」ではなく「こんにちは」なのかというと、続きがあるからだ。「今日は、天気が良いですね」だとか「今日は、日柄が良いですね」などといった挨拶言葉のきっかけを作っている。
だから帰宅した時の「ただいま」も、正確には「ただいま戻りました」となる。

「ありがとう」は良いね、良くできた言葉だ。
英語だと「Thank You」直訳すると「あなたに感謝する」となる。中国語では「謝謝」そのままだ。
ところが日本語では「有難いことだ」と表現する。「有難い」と言うのだから「普通ではそうそう無い事だ」という意味であって、非常に敬っている姿が浮かんで来る。
だから「ありがとう」は実のところ自分への独り言のようなものであって、相手に語り掛ける形は採っていない。
実際に行動に移そうが心の中であろうが、合掌している姿を想像してしまう。
「Thank You」とは重みが違うように感じるのは、私だけだろうか。

しかし、私は学生の頃から引っかかっていることがある。いまだにはっきりしない日本語がある。

それは「前(まえ)」と「後(あと)」の使い方。

「以前」「過去」のことを「前(まえ)」と言い、「将来」「未来」のことを「後(あと)」と言う。
これって変なんじゃないかと思っている。
過ぎ去った過去のことであれば「後(うしろ)」なのではないか。
これからやって来る未来こそが「前(まえ)」なのではないか。
もし過去が「前(まえ)」だとすれば、人間は背後に向かってバックしながら生きていることになりはしないか。後ずさりしながら。
「以前のことを『ふりかえる』」などと言われてしまうと、私の頭はパニックになる。(え? 振り返る? 前を? あなた、どっちへ進んでるの?)

だから「以前」とか「以後」だとかの単語が会話の中に入って来ると、私は一人で(あれあれ、どっちだ?)とうろたえることが稀にある。
理念としてとらえるのではなく「前方」か「後方」かというイメージが先行してしまうからだ。

こんなバカバカしいことを考えるのは私ひとりだけらしく、誰も相手にしてくれない。



ああ、今日もこのような無駄な時間を過ごして、一日が『暮れ』てゆく。
皆さん、ご機嫌よう。





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No title

自分自身は動かず時の流れを見ているイメージなら前は過去で後が未来でしっくりくるのでは。
自分自身が未来に向かって進むイメージなら先が未来でしっくりきますね。

有り難うはすごい言葉ですね。日本語は面白いです。

同じです

こんにちは。

ウフフ…今日も考えてますねえ。

すごくよくわかります、その気持ち。

私が最近考えちゃったのは、東京の電車の到着表示の「こんど」「つぎ」の前後。

関西では味気ない「先発」「次発」「次々発」なので迷いようもないのです。

お二方

こういう人間をひと言で表す便利な日本語があります。

それは「暇人」です。

なぜならば当方は「天下御免の素浪人」だからです。
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