道の駅

いま『道の駅』が増えている。
地元の農産物や工芸品などを格安で販売している、婦人会や青年団などが共同出資した店舗だ。
格安にできるのは、輸送費がかかっていないから。人件費も農家の人が「片手間」でできるから。
何よりも鮮度が売りで、朝採れ野菜などのみずみずしい物が並ぶ。
それを近郊の新興住宅地に暮らす人々が買いにやって来る。
季節野菜が主で、ハウス栽培で季節を無視した物は嫌われる傾向にある。
それらを買いたければ、大型スーパーに行けば好きなだけ手に入る。
ただし生産者の顔が見えない作物だから、下手をすれば外国産を掴まされる恐れもある。

『道の駅』や『産直ショップ』などでは、農産物にしろ水産物にせよ工芸品にせよ、作り手が「隣近所に恥ずかしくない物を」という地方ならではの一種のプライドがある。
だから堂々と出荷者の名前が表示されている。
一方で、ある大型スーパーではプライベートブランド(PB)と称して原産国名の表示を止めてしまった商品があるという。
だから韓国製なのか中国製なのかもわからないカップラーメンのような物が格安で売られていることになる。
ラーメンならまだ良い方で、レトルトパックのカレーなどになると、肉やジャガイモやニンジンや玉ねぎなどの複数の食材が色々な国から輸入されているはずだが、こうした加工食品のそれぞれの食材の原産国名は表示しなくても良いことになっている。
だからどこかの国で鳥インフルエンザなどで病死したチキンやポークの肉が紛れ込んでいたとしても、誰にもわからない仕組みになっている。
カレーでなければハンバーグならどうだろう。
あるいはソーセージだったらどうか。
町で人気の手作りパン屋さんってよくあるけれど、そこで売られているアンパンやカレーパンの餡やカレーはその店で手作りされているかと言うと、ほとんどは出入り業者が「業務用」と称して納入しているんだよね。
2kgくらいのビニール袋に入った食材を、発酵させたパン生地に入れるだけ。使い残りの食材は封をして冷蔵庫で保存。当然防腐剤が入っている。
だから餡にしろジャムにしろクリームにしろカレーにしろ、それにどのような添加物(PH調整剤とかソルビン酸とか人工甘味料とか)が使われているかなんてパン屋さん自身も知らない。
バターロールとか言っても、はっきり言ってバターじゃなくマーガリンだからね。
学校給食で小さな袋入りのジャムが出るけれど、それにどんな人工甘味料や増粘剤や着色料が使われているかなんて、少なくとも教師は与り知らぬ話ってことになる。

『道の駅』に話を戻そう。
良くあるのが漬物の試食品。
「あ、この柴漬け美味しいな」と言って店の人に声をかける。
「どんな味付けと着色料を使っているんでしょう」
「それを作った奥さんがちょうど来ているから聞いてごらん」
化学物質の添加物なんて素人では手に入らないと彼女は言う。
「昔からの作り方さ」
紫蘇の葉で色付けされた柴漬けは、絵の具のような鮮やかな赤みは出ない。少しくすんだ古ぼけた赤色だ。
「本物を知らない人が増えたからね」
駐車場の向こうには、大型スーパーの巨大看板が見えていた。

数年前の地震や停電、あるいは今年の関東地方の大雪によって物流が止まった。
コンビニなどのスーパーの棚から食品が一斉に姿を消した。
東京都のカロリー自給率は数パーセントしかないと言う。
つまり平常時に買われている食品には大なり小なり運送費が乗せられているということを意味している。
裏を返せば、東京都民はガソリンや軽油を食べていることになる。
華やかでお洒落で豊かな不夜城の東京。
しかしそれを維持しているのは、ガソリンや軽油や原子力などの燃料だったことにようやく気が付いた。

スーパーでバナナを見てみよう。
エクアドル産のものとフィリピン産のものと台湾産のものがある。
距離的にいちばん遠いのがエクアドル、その次がフィリピン、一番近いのは台湾。
しかしバナナの値段はその逆になっている。
エクアドルのバナナが一番安いのだ。
なぜ輸送費までかけて地球の裏側から運んで来た物が一番安いのか。それが人件費だからだ。
この3国の中で人件費が最も高いのが台湾だ。
だから輸送費がかからなくても台湾バナナは高い。
値段だけを見て人々はエクアドル産のバナナを選ぶ。
しかしそこには石油という有限な資源を使って運ばれて来たという自覚がない。
生産地の人件費さえ安ければ、輸送費が多少かかろうとも小売価格は低く抑えられて飛ぶように売れる。
これは首都圏における地方の農産物の値段叩きと同じ意味を持っている。
三重県の牡蠣よりも長崎県平戸の牡蠣の方が安く仕入れることができるのはそこだ。
三重県の養殖業者は大阪という巨大な市場を持っているから別に安売りする必要はない。
しかし平戸の養殖業者は買ってもらえるのなら多少値段を安くしても出荷したい。「僕たちの足元を、見て見て」とやる訳だ。
地方の運送業者ほど仕事に困っているから、長距離なんかの話が来ればコロコロとダンピングする。

だから平戸の牡蠣や対馬のサザエが地元でバカみたいに安くで売られているのは理に適っている。
千葉の水産物の日帰り買い物バスツアーが大人気だというのも、輸送費を掛けずに客の方から来てくれるだけで激安販売が可能になっている。
しかもナイル川やアマゾン川で捕れた得体の知れない食材などではなく、きちんと生産者の顔が見える買い物ができる。
ネット通販の「お取り寄せ」も良いが、カニを食うなら函館へ、ワインを飲むなら山梨へと足を運ぶという労力をかける価値がそこにある。

何でもかんでも便利になり過ぎた世の中は、自分が何を食べさせられているのかを誰も知らなくなっている。
私は京都土産のカブの千枚漬けを食べながら、鹿児島の知覧茶を飲むのが好きである。
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