有りそうで、ない話

先週、定期的に処方箋を出してもらっている病院へ出かけた。

待合ロビーのイスに座っていると、背後から肩を叩かれた。

「ご無沙汰してます」と相手が言った。

(はて誰だっけ?)と思いつつも私は「ええ、お久しぶりですね」と当たり障りのないような返事をした。

(どこで会ったかな。同窓生? それともどこかの飲み屋の常連? あるいは昔の取引先?) まったく思い出さない。

「お元気でしたか」と聞かれた私は(元気じゃないから病院に来てるんじゃないか、変なヤツだ)と思いつつ、笑顔で「ええ、まぁ」と誤魔化した。

「奥さんは、その後いかがですか?」と聞かれたので、最近の皮膚湿疹のことを言っているのか、それとも数年前の子宮筋腫のことだろうか、もっと前の胆管炎のことだろうかと記憶をフル回転させた。

「お蔭さまで」

便利な言葉を思いついたものだ。

タイミングよろしく清算窓口で私の名前が呼ばれた。

処方箋と健康保険証と診療カードを受け取って振り向くと、すでに立ち去ったものとばかり思っていたその男性がまだ座っていた。

「あのう」彼は言い難そうな顔で声を掛けて来た。

「すみませんが、どちらさんでしたっけ?」

「え?」

そう言われた私の方が面食らった。

「実は私も同じことを考えていたんです」と私。



我々はどちらからともなく笑い合った。

「思い違いだったようですね」と私は言った。


次にまたこの病院で会うようなことがあれば、その時こそ「お元気でしたか?」と言うことができるだろう。



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