本当にあった怖い話

かつての職場で聞いた体験談である。

石川県の小松で仕事があり、単身赴任で数か月の出張をすることになったある社員。単身赴任向けのワンルーム・マンションをあてがわれた。

単身者用だけにオール電化になっていて、キッチンのコンロはIH。暖房はオイルヒーターとエアコン。風呂も電気給湯器。何から何まで電気だったという。

赴任中に年末がやって来たのだが、彼の奥さんが住居から子供を連れて実家に戻ってしまい、帰宅しても誰もいないことから「今年は赴任先で新年を迎えるわ」ということになった。

ところが単身者用のマンションだから、年末になると無人になってしまい、彼一人がビルに取り残されてしまった。

その年の暮れは記録的な寒波がやって来たということで、日本海側は暴風雪波浪警報が出たという。

コタツに入って日本酒を飲みながらのんびりと紅白歌合戦を観ていたら、ぷっつりと電気が消え、テレビも映らなくなった。

「え?」と思い、窓の外を見るとあたりの家の灯りも消えている。「停電だ」。

真っ暗になった部屋で、オイルライターを点けてランタンと電池を探した。

コタツもエアコンも止まった。急激に室内の温度が下がって来る。すぐに電気は復旧するかと思ったが、待てど暮らせど灯りが点かない。「ちょっとヤバいな」。

駐車場に停めていたクルマのキーをつかんで部屋を飛び出した。エンジンをかければヒーターが利くだろうという考えだった。

廊下に出てもエレベーターが動かない。「動力まで切れたのか」

階段を使ってどうにか一階まで降りて駐車場に出た。

夕方までに10センチほど積もっていた雪は、すでに30センチ近くになっていた。クルマのドアが開く程度に除雪しなければならなかった。

クルマに乗り、エンジンをかけてラジオをつけた。高圧送電線に着雪して小松市一帯が停電し復旧の見通しが立たないと伝えていた。

年末年始のことを考えて燃料を満タンにしていたから安心ではあったが、フロントガラスに次々と雪が積もって行くのを見ていると、急に不安になったという。そりゃそうだ。

正月3賀日はまず誰もマンションに戻って来る者はいないだろうし、そのころはまだ田舎にコンビニとかもなかった時代である。

ワイパーが窓の雪を掃くことが難しくなってから「ここに居ちゃ危ない」と気が付いたそうだが、時すでに遅く、道路を走る状態ではなかった。

ラジオでは「自分の身は自分で守れ、周囲の人と援け合え」と伝えているが、オレの周囲にゃ誰もいねぇ、と泣きそうになったという。

すると車内の空気が排気ガス臭くなってきた。「やべぇ、マフラーがふさがった」。エンジンを切り、窓を開けた。風吹が容赦なく吹き込んで来る。

「もうダメだ」と思ったとき、誰かが懐中電灯の灯りを差し向けた。

「誰かいる?」それは向かいのタバコ屋さんのお婆ちゃんの声だった。

彼は思わず「助けてー!」と叫んだらしい。



お婆ちゃんの家に転がり込むと、そこには昔ながらの火鉢があったということである。

めでたし、めでたし。




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